猫の目

「ねぇ〜オレとヤってみない?」 


ピンクの髪に派手な黄色のメッシュ。服はどっかのブランドもん、一目見たときこいつやべぇって思った。
今思えば見た目よりも発言のほうがぶっとんでたけど。

「はぁ?」
「あ、オレね、梅しそっての!梅って呼んで?」

名乗ったそいつは明らかに引いてる俺の腕を取って猫みてぇに擦り寄ってくる。

「……」

香水の匂い混じるんだけど・・・
それはついこないだ出た新作で、俺が欲しいと思っていたものだったから更に思わず眉根がよった。

「君と同じ学部だよぅ〜いちおー、だからさ、ヤらない?」
「男と?」

言っておくが、俺にそんな趣味はない。
・・・あの時の事はただの気まぐれと、思春期のイラつきが衝突した事故だ・・・と、思っている。
嫌そうな顔をしていたはずなのに、反対に梅はニヤリと笑った。

「オレとっ!んー同族だったと思ったんだけど違った?」
「なんで」
「匂いと、今否定じゃなくて疑問文だったから〜 もっとも、氷音はどっちもいけるみたいから完全には一緒じゃないけど」

「俺の名前知ってたのか」

同じ学部だとは言え、広いキャンパスだ。知ろうと思ってもわかるものじゃない。
うさんくせぇから暗に責めたのに、梅はまたニヤリと笑って受け流す。

「どうでも良いことだよ、それにオレ自分で言うのも何だけど上手いよ?」

そう言った後の目はまるで慣れた娼婦のそれで、はじめは猫のようだと思った触り方も煽るように変わっていた。


確かめたいことがある。
それは世間一般のモラルを超えてしまった話で、忘れようと思ったもので。
けれど今更か、と諦めかけていた俺の現状さえ見通したような目に、またどうでもよくなってしまった。


「…俺もだ」


そして最終的には憂さ晴らしになればっつー結論に落ち着く。

「交渉成立っよろしくね、ひーくんっ」


あだ名にかわんの早くね?と思いつつ、人ごみの中に紛れて行く。


 悩みもきっとなくなるよ


呟かれた言葉は当時の俺には聞こえなかった。


 

★ニューラ♂ 梅しそ マニューラ♂氷音